NOTES — 研究ノート

原種の分布

当方が育てる原種と研究対象の種について、4つの情報源の産地の記録を重ねたノートです。 地図の塗り分けは、GBIF に集まる標本記録を州ごとに数えたものに野生観察の位置を重ねたものです。栽培個体の観察は、世界中の栽培先を映してしまうため除いています。 POWO と Flora do Brasil の分布表記も重ねてあり、情報源同士が食い違う点は、どちらかに寄せて決着させず、そのまま注記しています。(*データは2026年11月時点のものです)

記録の重ね方HOW THE RECORDS WERE COMPARED

GBIF は世界の標本館の収蔵記録と観察記録の集積で、ディッキアでは標本が中心です。州別の件数は標本ラベルの州表記を数えたもので、表記揺れは寄せてあります。 iNaturalist は市民観察の集積で、野生と記録されたものだけを点にしました。座標が秘匿された観察もあり、点の位置はおおよそのものです。

POWO の分布表記は州単位ではなく、TDWG の地域区分(Brazil South など)で示されます。 Flora do Brasil の州別リストは、WFO に転載された情報で一部のみ参照できます。「未取得」は「分布なし」の意味ではありません。

地図はブラジル国内のみを描いています。アルゼンチン・パラグアイ・ウルグアイに記録のある種(distachya、remotiflora、pampeana など)は、各種の注記と本文に書きました。 州境の底図は、「ディッキアの基礎と形態」と「原産地ブラジル」の分布図と同じものを使っています。

種ごとの分布図MAPS BY SPECIES

濃色の州は GBIF の記録が5件以上ある州、淡色は1〜4件の州です。白い点は iNaturalist の野生観察です。 単一の記録は外れ値や誤同定の可能性が残るため、淡色に分けました。remotiflora では、ウルグアイの観察点が地図の南端の外側に落ちています。

Dyckia goehringii
Dyckia goehringii — 標本の核は Goiás にあり、Minas Gerais と Mato Grosso do Sul に少数の記録が外れます。
Dyckia monticola
Dyckia monticola — 標本は Santa Catarina の Quiriri 山地に集中します。Rio Grande do Sul の記録は要確認です。
Dyckia dawsonii
Dyckia dawsonii — 標本・観察とも Goiás で揃い、情報源同士が一致します。
Dyckia delicata
Dyckia delicata — Rio Grande do Sul の Barros Cassal 一帯に限られます。
Dyckia estevesii
Dyckia estevesii — 標本は Goiás に集まります。iNaturalist の野生観察はまだありません。
Dyckia frigida
Dyckia frigida — Paraná の Ponta Grossa・Vila Velha 一帯と一致します。
Dyckia hebdingii
Dyckia hebdingii — iNaturalist の野生観察はありませんが、標本は Rio Grande do Sul で揃います。
Dyckia macedoi
Dyckia macedoi — Minas Gerais が核で、Goiás と Bahia に単一の外れ値があります。
Dyckia maracasensis
Dyckia maracasensis — Bahia の Maracás 方面に集まります。
Dyckia marnier-lapostollei
Dyckia marnier-lapostollei — Goiás と連邦区が核です。Minas Gerais の標本も一定数あり、Rio Grande do Sul に単一の外れ値があります。
Dyckia milagrensis
Dyckia milagrensis — Bahia のタイプ産地 Milagres の記録のみです。
Dyckia brevifolia
Dyckia brevifolia — Santa Catarina が核で、南部3州に広がります。
Dyckia choristaminea
Dyckia choristaminea — 標本は Rio Grande do Sul に集中します。POWO の新しい分布範囲とは食い違います。
Dyckia noelii
Dyckia noelii — 4つの情報源すべてに記録がありません。
Dyckia reitzii
Dyckia reitzii — 南部3州にあり、標本は Rio Grande do Sul が最も多くなります。
Dyckia tenebrosa
Dyckia tenebrosa — Minas Gerais が核です。Bahia の2024年の採集は、標本裏付けのある単一記録で要確認です。
Dyckia distachya
Dyckia distachya — 南部3州とウルグアイ川流域にあり、アルゼンチンにも標本があります。
Dyckia fosteriana
Dyckia fosteriana — Paraná が核で、標本・観察とも一致します。
Dyckia lindevaldae
Dyckia lindevaldae — Goiás と連邦区にあり、野生観察は全て研究グレードで揃います。
Dyckia strehliana
Dyckia strehliana — Rio Grande do Sul の Toropi 川流域とされ、記録自体が少ない種です。
Dyckia encholirioides
Dyckia encholirioides — Santa Catarina・Paraná の沿岸が核で、観察数が最も多い種です。
Dyckia remotiflora
Dyckia remotiflora — Rio Grande do Sul と、地図の外のウルグアイに大きな集団があります。
Dyckia goiana
Dyckia goiana — 標本は Goiás が核です。Mato Grosso の記録は1960年代の遠征標本のみです。
Dyckia grandidentata
Dyckia grandidentata — Mato Grosso do Sul 北部が核で、Goiás に単一の標本記録があり要確認です。
Dyckia lunaris
Dyckia lunaris — Goiás の Chapada dos Veadeiros、Vale da Lua 一帯に集中します。Tocantins に単一の写真記録があり要確認です。
Dyckia magnifica
Dyckia magnifica — 原記載の引用標本のみで、Santa Catarina と Rio Grande do Sul にあります。POWO は Rio Grande do Sul のみを挙げ、食い違います。
Dyckia mezii
Dyckia mezii — Minas Gerais 南部の Tiradentes〜Carrancas 一帯に集中します。
Dyckia pampeana
Dyckia pampeana — Rio Grande do Sul 南西部が核で、ウルグアイのパンパへ続きます。観察点はウルグアイ側にあります。
Dyckia rariflora
Dyckia rariflora — Minas Gerais の Espinhaço 一帯に集中します。
Dyckia stolonifera
Dyckia stolonifera — Mato Grosso do Sul の1回の採集のみが知られます。記録がきわめて薄い種です。

食い違いと要確認の記録DISAGREEMENTS AND RECORDS TO CONFIRM

monticola の Rio Grande do Sul 記録

標本の核は Santa Catarina の Quiriri 山地に集中し(GBIF の標本24件)、近年の分類論文の見立てと合います。 一方で Rio Grande do Sul には、1952年の標本(Passo da Guarda、IAP 51867)と2012年の写真記録(São José dos Ausentes 方面)が、どちらも Santa Catarina との州境に近い北東高原にあります。 ただし POWO とフロラの州別分布に Rio Grande do Sul は含まれず、近縁の encholirioides 複合体との混同もあり得るため、ここでは要確認として分けました。 逆に Minas Gerais は1957年の標本が1件あるだけで、「Minas Gerais と Santa Catarina」という古い分布表記は、この標本に基づく記述とみられます。

tenebrosa の Bahia 記録

原記載以来、Minas Gerais のみとされてきた種です。Bahia の記録は、2024年に Rio de Contas(Chapada Diamantina)で採集された標本(FLOR 80242)と同じ採集の観察投稿に集約されます。 誤記や写真だけの主張ではなく、証拠標本のある新記録ですが、単一の採集であり、POWO とフロラの分布表記にはまだ反映されていません。要確認として継続して見ます。 Mato Grosso do Sul の標本1件も、単一のため保留しました。

choristaminea の範囲

POWO は2025年の分類改訂を受けて、この種の分布を Argentina Northeast・Brazil Southeast・Uruguay まで広げています。 しかし GBIF の標本はブラジル内の Rio Grande do Sul に集中し、Flora do Brasil 2020 も Rio Grande do Sul のみを挙げます。 種概念の再編に標本データの整理が追随していない状態とみられ、どちらかに寄せて決着はさせません。

reitzii の Rio Grande do Sul

IUCN の2012年の評価は、Paraná と Santa Catarina を確実とし、Rio Grande do Sul を「存在不確実」としました。 しかし GBIF の標本では Rio Grande do Sul が3州で最も多く(42件)、iNaturalist の野生観察も同州が中心です。 評価の時点より後に標本が積み上がり、実態が変わっている可能性があります。

distachya のアルゼンチン

POWO の分布は Brazil South と Paraguay までで、アルゼンチンを含みません。 しかし GBIF には Misiones 州(アルゼンチン)の標本が20件あります。ダムで産地を失ったこの種の保全評価は「自生地と保全評価」にまとめました。 この点では、POWO の方が狭い記述になっています。

magnifica と POWO の表記

POWO の分布表記は Rio Grande do Sul のみを挙げます。しかし原記載(2023年)は Santa Catarina のパラタイプを引用しており、GBIF の記録も Santa Catarina と Rio Grande do Sul の両州にあります。 POWO の記述が原記載に追いついていないとみられ、地図は原記載側の2州で描きました。記録自体は原記載の引用標本のみで、野生観察はまだありません。

rariflora の Mato Grosso 記録

GBIF には Mato Grosso の標本8件がありますが、いずれも1911年の Hoehne 氏の採集で、州の表記と産地の表記(Itambé do Mato Dentro、Cabeça de Boi — いずれも Minas Gerais の地名)が、同じレコードの中で食い違います。 Mato Grosso の分布としての実体はないとみて、地図の塗り分けからは外しました。Minas Gerais の Espinhaço 一帯の核は、標本で堅く裏付けられています。

lunaris の Tocantins 記録と情報源の重なり

記録は Goiás の Chapada dos Veadeiros、Vale da Lua 一帯に集中します。Tocantins の Palmas には写真のみの単独記録があり、核から北へ大きく離れるため、要確認として分けました。 また GBIF のこの種の件数の多くは iNaturalist の観察の転載で、2つの情報源は独立していません。標本は Alto Paraíso 方面で揃います。

古い遠征標本と単独記録(goiana、grandidentata)

goiana の Mato Grosso の記録6件は、1967〜68年の遠征標本で、近年の記録がありません。地図では件数の規則どおりに塗っていますが、古い記録である点はここに注記します。 grandidentata の Goiás の記録は、Chapada dos Veadeiros で2011年に採集された標本1件のみで、Mato Grosso do Sul 北部の核から離れた単独記録です。標本の裏付けはありますが、要確認として分けました。

記録の薄い種THIN RECORDS

Dyckia noelii は、4つの情報源のいずれにも記録がありません。 POWO と WFO で種のページを特定できず、GBIF にも種としてのデータがなく、Flora do Brasil 2020 のディッキアの処理種リストにも名前が見当たりません。 この名は正式に記載された学名ではなく、サンタカタリーナ州北東部 Campo Alegre の高地で見つかった未記載の植物への提案名として流通してきました。データベースに記録が見当たらないのは、このためと考えられます。分布の断定は入れていません。国内の記録でも、Campo Alegre 由来のこの植物が保持され、花序の観察からは monticola とは別のものらしいとされています。

iNaturalist の野生観察が0件の種もあります(goehringii、maracasensis、milagrensis、hebdingii、estevesii、magnifica、stolonifera)。 ただし、観察がないことと分布の裏付けがないことは別です。hebdingii のように、標本が Rio Grande do Sul で34件揃う種も含まれます。

Dyckia stolonifera は、Mato Grosso do Sul で2007年に採集された1回の採集のみが知られます(同じ採集の二重登録を除けば1件)。野生観察もなく、分布の姿はまだ描けません。

Dyckia ibiramensis は、このノートでは地図に載せていません。知られる分布はサンタカタリーナ州 Ibirama の川沿いの短い区間に限られ、ダムによる水没が計画されてきた種です。保全評価は「自生地と保全評価」にまとめました。

出典SOURCES

iNaturalist の観察データ(2026年11月取得。野生個体のみを使い、栽培個体は除いた)。 GBIF の標本・観察レコード(2026年11月取得。iNaturalist の研究グレード観察は GBIF にも取り込まれるため、州別の件数は GBIF 側で数えた)。 Plants of the World Online (POWO)、Royal Botanic Gardens, Kew(受容名と、TDWG 地域区分による分布)。 Flora e Funga do Brasil (Flora do Brasil 2020)、Jardim Botânico do Rio de Janeiro(州別リストは WFO の転載経由で一部のみ確認)。 Flora Neotropica の Dyckia monticola の記述(Minas Gerais と Santa Catarina、WFO 経由)。 IUCN Red List の Dyckia reitzii の評価(2012年)。

調査:2026年11月

↑