CULTIVAR — 品種
Dyckia dawsonii Bill Baker’s Clone
ディッキア・ダウソニー ビルベイカーズ クローン
基本情報DATA
| 区分 | 品種(Cultivar) |
|---|---|
| 記録タグ | #tgn_dyc_dsn_bbc #tgn_dyc_dsn_bbc_02 |
特徴PROFILE
細長い葉が多数放射状に密に開き、中心が小さく巻き込むロゼットをつくる。 葉の地は紫を帯びた濃い暗色で、トリコームは少なく地の色が主体になる。 縁の棘は淡い色で大きく、鉤状に反り返って葉同士の間まで密に重なり合う。 dawsonii の Bill Baker’s Clone として記録される株で、暗い葉と密な棘の対比が姿の中心にある。原種そのものではなく、クローン(品種)として伝わった株です。
国内の育成家の記録では、このクローンは BBC と略記され、‘Donna Marie’ との交配の親にも使われています。 同じ dawsonii でも、Dutch Vandervort のコレクションに由来し、Bryan Chan 氏を経て国内に入った別の系統も育てられています。
ここで、原種としての dawsonii の姿を文献から引いて、当方のクローンと並べてみます。Dyckia dawsonii は、ブラジル・ゴイアス州のセラードに広がるカンポ・ルペストレ(岩場の草原)で、岩に着いて生きる種です。1957年の原記載で Smith 氏は、線形で基部の幅が約7 mmしかない葉、葉の幅に迫る長さ5〜7 mmの棘、両面を覆う灰色の鱗片、9 mmほどの黄色い花弁を記し、花の形質では Dyckia niederleinii に近いとしました。Flora do Brasil 2020 も、分布をゴイアス州のみとしています。
その記載と、当方のクローン(Bill Baker’s Clone)の記録を項目ごとに並べると、次のようになります。
| 項目 | 原種としての dawsonii(記載・文献) | 当方のクローン(当方の記録) |
|---|---|---|
| 葉の幅と形 | 線形で、基部の幅は約7 mm(原記載) | 細長い葉が放射状に密に開く姿で、「細い」と記録しています。葉幅の実測記録はありません |
| 葉色と鱗片(トリコーム) | 葉の両面が灰色の鱗片に覆われます(原記載) | 葉の地は紫を帯びた濃い暗色で、第2の系統(bbc2)は鮮やかな赤紫に染まります。トリコームは少なく、地の色が主体になります |
| 棘の長さ・形 | 長さ5〜7 mmで細く湾曲し、まばらに並びます。長さは葉の幅に迫ります(原記載) | 淡い色で大きく、鉤状に反り返って密に重なり合います。長さの実測記録はありません |
| 花 | 黄色で、花弁は9 mmほど。花の形質では Dyckia niederleinii に近いとされます(原記載) | 記録なし。当方の記録では、まだ開花を記録していません |
| 成長と大きさ | 原記載に、大きさの目安になる記載はありません | 「成長は緩やか」と記録しています(2023年6月)。大きさの実測記録はありません |
| 寒さへの強さ | 原記載に、耐寒性への言及はありません | 寒さには強い印象と記録しています(2023年1月) |
並べてみると、細い葉と、葉幅に迫る長い棘という、Smith 氏が「葉だけで他のすべての種と区別できる」とした要点は、当方のクローンの姿にも重なります。一方で、原記載が「まばらに並ぶ」とした棘は当方の株では密に重なって見え、両面を覆うはずの灰色の鱗片も、当方の株では少なく、地の暗色が主体です。それが栽培環境で変わる部分なのか、この系統の個性なのかは、記録を重ねながら見ていきます。なお、この照合は姿の比較にとどまるもので、このクローンの位置づけをめぐる見解については「記録」の項に記したとおりです。
GBIF の標本と iNaturalist の野生観察は、すべて Goiás の記録です(「原種の分布」)。
記録NOTES
Dyckia dawsonii Bill Baker’s Clone は名前の付いた品種です。Instagram では 2023年1月 から 2026年7月 まで、8 件の投稿で記録しています。記録タグは #tgn_dyc_dsn_bbc、#tgn_dyc_dsn_bbc_02 です。
原種 Dyckia dawsonii は、ブラジル・ゴイアス州に固有の岩着生の種です。1957年、Lyman B. Smith 氏がマクリス探検隊(Machris Brazilian Expedition)の報告の中で記載しました。タイプは、E. Yale Dawson 氏が1956年6月10日にセーラ・ドウラーダ南部のフォルモーゾ東方約20 km、セラードの峡谷沿いの岩の露頭で採集した株(Dawson 15236)です。Flora do Brasil 2020 も分布をゴイアス州のみとし、セラードのカンポ・ルペストレ(岩場の草原)に生えるとしています。
Smith 氏は原記載で、花の形質では Dyckia niederleinii に近いものの、「葉だけでも本種は属の他のすべての種と区別できる」と記しています。葉は線形で基部の幅は約7 mmしかなく、縁には長さ5〜7 mmの細く湾曲した棘がまばらに並びます——棘の長さが葉の幅に迫る姿です。葉の両面は灰色の鱗片に覆われ、花は黄色で、花弁は9 mmほどです。Smith 氏は、この葉が Encholirium bradeanum に酷似していることにも触れています。
タイプ採集の株は、すでに1956年の時点でカリフォルニア州サンタモニカで栽培されており、原記載の図版にも載っています。1950年代後半には Huntington Gardens で魅力的な dawsonii が育てられ、その子株をカリフォルニアで保持していたのが Bill Baker 氏と Dutch Vandervort 氏だったと伝えられます(Derek Butcher 氏の調査による。詳しくは「本場アメリカのディッキア」)。本ページの株は、その Baker 氏の系統のクローンとして記録しています。
このクローンの位置づけについては、異なる見解もあります。ブラジルの育成家 Constantino 氏は、自身のブログ「Dyckia Brazil」(2020年5月)で、dawsonii は長く自然界で姿を消し、自生地も伏せられてきた種であり、近年になって再発見されたときにも姿かたちのばらつきが大きいことが確かめられたとして、dawsonii そのものが自然交配種なのではないかと述べています。氏は自身が保持する Baker 氏の系統の株を「その最も美しい姿の一つ」として写真で示し、別稿ではその株を「おそらく交配種」と表題に掲げました。これに対して、POWO や Flora do Brasil 2020 は dawsonii を独立した原種として認めており、自然交配種説は Constantino 氏個人の見解にとどまります。本ページの株は、Huntington の株の子株を受け継ぐ Baker 氏の系統として記録しており、種子から育った株とは来歴が異なります(混植された環境で採れた種子には交配の混入がありうることは、Butcher 氏も指摘しています)。
入手元の DIFOLA(Dit Formadea)は、このクローンを米国のコレクターが選抜した親株ごとに「タイプ」として分け、年と出所を示すコードを付けて扱っています。葉色が赤紫色に染まる選抜個体は ‘S-Red-Purple type’(2011 US)と呼ばれ、証明書付きの子株が特注で出回るほか、同ラボで育てた実生世代も出ています。赤色の発色で知られる ‘Super Red Type’ は、2020年に同ラボへ入荷した母株を中心とする系統です。棘の色にちなむ ‘yellow spine type’ は、選抜親株(コード YR2012C)から同ラボが繁殖させた実生グループで、2023年発芽の第2世代まで進んでいます。DIFOLA は、タイプの違いは株が育つと形に表れるものの、1〜2年生の苗ではほとんど見分けがつかないとも述べています。当方の2系統(#tgn_dyc_dsn_bbc と #tgn_dyc_dsn_bbc_02)がどのタイプに当たるかは、記録からはまだ特定できていません。
