NOTES — 研究ノート

自生地と保全評価

白い砂と柱サボテンのある高地の岩場
ディッキアが生きる高地の岩場の風景(カンポス・ルペストレス)(写真:Luisa Mansur、CC BY-SA 4.0、Wikimedia Commons)

ディッキアの原種の多くは、ブラジルの限られた岩場や高原にだけ育ちます。このノートは、そのうち公式の保全評価を受けた種について、評価の読み方と、自生地で起きている喪失の記録を、出典を分けてまとめたものです。 評価の土台は、ブラジルの国家リスト(絶滅のおそれのある植物の公式リスト)です。州のリストや IUCN のレッドリスト、論文や個人の記録は、国家リストとは混ぜず、出所を明示して併記します。 自生地の分布そのものは「原種の分布」にまとめています。

評価カテゴリーの読み方HOW TO READ THE CATEGORIES

霧のかかる高地の草原
高地の草原(カンポス・ルペストレス)。ミナスジェライス州セーラ・ド・チポー(写真:A. Duarte、CC BY-SA 2.0、Wikimedia Commons)

保全評価には、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで使われる区分が広く用いられ、ブラジルの国家リストもこの区分に沿って評価しています。深刻な順に並べると、次のようになります。

このほか、記録が不足して評価できない DD(Data Deficient)=情報不足という扱いもあります。CR・EN・VU の3つが、「絶滅危惧」と総称される範囲です。確認できる範囲では、国家リストに EX・EW で載ったディッキアはありません。

国家リストに載るディッキアDYCKIA ON THE NATIONAL LIST

岩の露頭にロゼット状の植物が群生する高地
岩場にロゼット状の植物が群生する高地、セラ・ド・シポー(ミナスジェライス州)(写真:Nortondefeis、CC BY-SA 4.0、Wikimedia Commons)

ブラジルの国家リストは、環境省の省令で定められる公式リストです。現行版は Portaria GM/MMA nº 1.783/2026(2026年10月公布)で、評価は CNCFlora(ブラジル植物相保全センター)が担っています。このリストに載るディッキアは、次のとおりです。当方の原種ページがある種は、種名からページへ進めます。

CR(近絶滅種、Critically Endangered)

Dyckia agudensisリオグランデ・ド・スル州のリストでも CR。
Dyckia bifloraEncholirium biflorum から移行。
Dyckia delicataリオグランデ・ド・スル州のリストでも CR。
Dyckia disjunctaEncholirium disjunctum から移行。
Dyckia distachyaダムの貯水で産地を失った記録がある(「ダムと川の岩場の種」)。
Dyckia hatschbachii1951年に採集されたタイプ標本だけで知られる。
Dyckia hennigianaEncholirium irwinii の改名。
Dyckia longifloraEncholirium longiflorum から移行。
Dyckia martinellii
Dyckia monticola
Dyckia pedicellataEncholirium pedicellatum から移行。
Dyckia pendulifloraEncholirium kranzianum の改名。
Dyckia ursina
Dyckia vogeliiEncholirium vogelii から移行。

EN(絶滅危惧種、Endangered)

Dyckia argentea2026年版で新規収載。mezii と同一かは未確認(「評価が割れる記録と、公式でない言及」)。
Dyckia brachyphylla2026年版で新規収載。
Dyckia caudataEncholirium gracile の改名。
Dyckia fosteriana成熟個体の採取が評価理由に入る(「採掘・生息地の転換・採取」)。
Dyckia heloisaeEncholirium heloisae から移行。
Dyckia horridaEncholirium horridum から移行。
Dyckia ibiramensisサンタカタリーナ州のリストでは CR。2024年の調査で株の数が大きく減った(「ダムと川の岩場の種」)。
Dyckia luxorEncholirium luxor から移行。
Dyckia maritima
Dyckia pectinata2026年版で新規収載。
Dyckia rariflora鉄鉱石の採掘が主な圧力として報告される(「採掘・生息地の転換・採取」)。
Dyckia reitziiIUCN の評価でも EN。州のリストでは CR と重い(「評価が割れる記録と、公式でない言及」)。
Dyckia remotiflora
Dyckia scrutorEncholirium scrutor から移行。
Dyckia viridifloraEncholirium splendidum の改名。

VU(危急種、Vulnerable)

Dyckia mezianaDeuterocohnia meziana から移行。当方の mezii とは別の種。

2026年版への改訂では、2022年版から続く種のカテゴリーに変更はなく、旧 Encholirium 名義だった種と Deuterocohnia meziana が Dyckia 名義に移りました。新しく加わったのは argentea、brachyphylla、pectinata です。

平らな頂の台地と遠景
サンタカタリーナ州サンジョアキン国立公園の台地(写真:Eliza Lino、CC BY-SA 4.0、Wikimedia Commons)

ダムと川の岩場の種DAMS AND THE RIVERSIDE ROCK SPECIES

川の急流沿いの岩場に生きる種(rheophyte、渓流生植物)は、水力発電ダムの貯水に産地ごと沈んできました。

玄武岩の峡谷を流れるユクマンの急流
ウルグアイ川のサルト・ド・ユクマン(トゥルヴォ州立公園)。distachya の最後の野生個体群が残る場所(写真:Anderson Cristiano Hendgen、CC BY-SA 4.0、Wikimedia Commons)

Dyckia distachya(CR)

ウルグアイ川とペロタス川の急流沿いに育つ種です。野生個体群はもともと8つが知られていましたが、Itá、Machadinho、Barra Grande の各ダムの貯水池に産地が沈み、現在知られる野生個体群は、Turvo 州立公園(リオグランデ・ド・スル州)の Salto do Yucumã の1つだけとされます(2012年の遺伝学研究)。ダムの閉鎖に先立っては、Chapecó 近郊から集められた個体がサンタカタリーナ連邦大学の遺伝資源バンクに移され、域外で保全されています。一方で、対話プロセスの背景文書には「ブラジルでは絶滅したものとみなされ、再導入(repopulation)が進む」と書くものもあり、現存の捉え方には時期と定義の差があります。

Dyckia Brazil の Constantino 氏は、aurea タイプの原産地(ウルグアイ川)が Itá ダムの建設で失われたと記録しています(個人の現地記録)。

Dyckia brevifolia(国家リスト未収載/州リスト EN)

イタジャイ=アスー川(サンタカタリーナ州)の岩場の種で、国家リストには載っていませんが、リオグランデ・ド・スル州のリストでは EN(絶滅危惧種、Endangered)に評価されています。2024年の個体群調査では、株の数(ロゼット数)が56%減ったと報告されました(サンタカタリーナ連邦大学の学位論文、2025年)。Salto Pilão 発電所近くの Colônia Subida のコロニーは2024年に消滅したと、地元の環境団体の発信に明記されています。種全体ではなく、その場所の個体群の消滅の報告です。種子から育てられた株は、Rio do Sul 植物園へ寄贈されています。

Dyckia ibiramensis(EN)

イタジャイ・ド・ノルテ川(サンタカタリーナ州 Ibirama)沿いの、およそ1.1 km の範囲にだけ分布します。CNCFlora の評価(2012年)では主たる脅威は水力発電所の設置で、認可された小水力発電の計画では、2つの亜個体群が完全に水没するとされました。サンタカタリーナ州のリストでは CR(近絶滅種、Critically Endangered)と、国家リストより重く評価されています。brevifolia と同じ2024年の調査では、株の数(ロゼット数)が64%減ったと報告されています。

採掘・生息地の転換・採取MINING, LAND CONVERSION AND COLLECTING

段状に掘られた鉄鉱石の露天掘り鉱山
鉄鉱石の露天掘り。ミナスジェライス州イタビラ(写真:Josue Marinho、CC BY 3.0、Wikimedia Commons)

Dyckia rariflora(EN)は、ミナスジェライス州の鉄四角形地帯(クアドリラーテロ・フェリーフェロ)の、鉄質のカンポス・ルペストレス(カンガ)に育ちます。主な圧力は鉄鉱石の採掘で、鉱山の廃石堆積場の直接影響圏内に本種の記録があることも、州の環境機関の文書に記されています。

Dyckia fosteriana(EN)はパラナ州のみに分布し、CNCFlora の評価(2012年)では、生息地の喪失と分断に加えて、成熟個体の採取が理由に入っています。「属の中でおそらく最も観賞価値が高く人気のある種」と評される種で、採取圧は評価理由の一つです。

Dyckia hatschbachii(CR)は、1951年に採集されたタイプ標本だけで知られ、以後は再発見されていません。タイプ産地が破壊されたと明言する資料はなく、確認できるのは、再発見されていないという事実までです。

掲載種のうち、評価理由の文面を確認できていない種については、カテゴリーと出典だけを示し、理由は書きません。

評価が割れる記録と、公式でない言及DIVIDED ASSESSMENTS AND UNOFFICIAL MENTIONS

Dyckia reitzii は、国家リストでは EN(絶滅危惧種、Endangered)ですが、リオグランデ・ド・スル州のリストでは CR(近絶滅種、Critically Endangered)と重く、IUCN の評価(2012年)でも EN とされながら、同州での存在は「不確実」とされました。標本と現地の記録は同州にあり、どの評価を読むかで結論が割れます。

Dyckia monticola については、利用者が編集する海外の園芸データベースに「野生絶滅(EW)」と書かれたものがあります。これは公式の評価ではありません。公式には、国家リストで CR(近絶滅種、Critically Endangered)です。

Dyckia argentea と mezii の関係も、まだ決着していません。分類データベース(Gouda らの Bromeliad Taxon List)では、argentea Mez は mezii の異名とされ、mezii はその置換名として作られた名です。ただし、2026年版の国家リストが「Dyckia argentea」の名で収載したものが mezii と同一の分類群かどうかは、評価票での確認が取れていません。両者は同一とは扱わず、mezii のページにも評価は載せていません。

原種の分布図は「原種の分布」にあります。

出典SOURCES

Portaria GM/MMA nº 1.783/2026(2026年10月26日発令、DOU 2026年10月28日掲載)の別表。Dyckia の掲載行は官報の原文で確認した。 Portaria GM/MMA nº 300/2022(2022年版の国家リスト)。 CNCFlora(Jardim Botânico do Rio de Janeiro)の評価ページ: fosteriana(2012年)、ibiramensis(2012年)。 IUCN Red List の Dyckia reitzii の評価(2012年評価、2014年公表)。 リオグランデ・ド・スル州リスト(Decreto Estadual nº 52.109/2014)。サンタカタリーナ州リスト(CONSEMA、2014年)。 Pompelli & Guerra (2004) Crop Breeding and Applied Biotechnology 4: 273-279。distachya のマイクロサテライト研究(2012年)。 Ferreira(サンタカタリーナ連邦大学 学位論文、2025年)の2024年個体群調査。Brazilian Journal of Biology(2023年)の brevifolia の分布調査。 Associação Ambientalista Pimentão Alto Vale の発信(2025年11月。Subida コロニーの消滅と寄贈について)。 BMC Research Notes(2024年)の rariflora と鉄鉱採掘の報告。Gouda & Butcher, Bromeliad Taxon List(異名の対応)。

調査:2026年11月

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