NOTES — 研究ノート
自生地と保全評価
国家リストの評価と、失われゆく産地の記録
ディッキアの原種の多くは、ブラジルの限られた岩場や高原にだけ育ちます。このノートは、そのうち公式の保全評価を受けた種について、評価の読み方と、自生地で起きている喪失の記録を、出典を分けてまとめたものです。 評価の土台は、ブラジルの国家リスト(絶滅のおそれのある植物の公式リスト)です。州のリストや IUCN のレッドリスト、論文や個人の記録は、国家リストとは混ぜず、出所を明示して併記します。 自生地の分布そのものは「原種の分布」にまとめています。
評価カテゴリーの読み方HOW TO READ THE CATEGORIES
保全評価には、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで使われる区分が広く用いられ、ブラジルの国家リストもこの区分に沿って評価しています。深刻な順に並べると、次のようになります。
- EX(Extinct)=絶滅。野生にも栽培下にも残っていない状態。
- EW(Extinct in the Wild)=野生絶滅。野生では絶滅し、栽培下でのみ残る状態。
- CR(Critically Endangered)=近絶滅種。絶滅の一歩手前の、最も重い危機ランク。
- EN(Endangered)=絶滅危惧種。野生で絶滅する危険性が高いとされるランク。
- VU(Vulnerable)=危急種。絶滅の危険が増大しているとされるランク。
- NT(Near Threatened)=準絶滅危惧。近い将来に絶滅危惧へ入るおそれがあるとされるランク。
- LC(Least Concern)=低懸念。現時点では絶滅のおそれが低いとされるランク。
このほか、記録が不足して評価できない DD(Data Deficient)=情報不足という扱いもあります。CR・EN・VU の3つが、「絶滅危惧」と総称される範囲です。確認できる範囲では、国家リストに EX・EW で載ったディッキアはありません。
国家リストに載るディッキアDYCKIA ON THE NATIONAL LIST
ブラジルの国家リストは、環境省の省令で定められる公式リストです。現行版は Portaria GM/MMA nº 1.783/2026(2026年10月公布)で、評価は CNCFlora(ブラジル植物相保全センター)が担っています。このリストに載るディッキアは、次のとおりです。当方の原種ページがある種は、種名からページへ進めます。
CR(近絶滅種、Critically Endangered)
| Dyckia agudensis | リオグランデ・ド・スル州のリストでも CR。 |
|---|---|
| Dyckia biflora | Encholirium biflorum から移行。 |
| Dyckia delicata | リオグランデ・ド・スル州のリストでも CR。 |
| Dyckia disjuncta | Encholirium disjunctum から移行。 |
| Dyckia distachya | ダムの貯水で産地を失った記録がある(「ダムと川の岩場の種」)。 |
| Dyckia hatschbachii | 1951年に採集されたタイプ標本だけで知られる。 |
| Dyckia hennigiana | Encholirium irwinii の改名。 |
| Dyckia longiflora | Encholirium longiflorum から移行。 |
| Dyckia martinellii | |
| Dyckia monticola | |
| Dyckia pedicellata | Encholirium pedicellatum から移行。 |
| Dyckia penduliflora | Encholirium kranzianum の改名。 |
| Dyckia ursina | |
| Dyckia vogelii | Encholirium vogelii から移行。 |
EN(絶滅危惧種、Endangered)
| Dyckia argentea | 2026年版で新規収載。mezii と同一かは未確認(「評価が割れる記録と、公式でない言及」)。 |
|---|---|
| Dyckia brachyphylla | 2026年版で新規収載。 |
| Dyckia caudata | Encholirium gracile の改名。 |
| Dyckia fosteriana | 成熟個体の採取が評価理由に入る(「採掘・生息地の転換・採取」)。 |
| Dyckia heloisae | Encholirium heloisae から移行。 |
| Dyckia horrida | Encholirium horridum から移行。 |
| Dyckia ibiramensis | サンタカタリーナ州のリストでは CR。2024年の調査で株の数が大きく減った(「ダムと川の岩場の種」)。 |
| Dyckia luxor | Encholirium luxor から移行。 |
| Dyckia maritima | |
| Dyckia pectinata | 2026年版で新規収載。 |
| Dyckia rariflora | 鉄鉱石の採掘が主な圧力として報告される(「採掘・生息地の転換・採取」)。 |
| Dyckia reitzii | IUCN の評価でも EN。州のリストでは CR と重い(「評価が割れる記録と、公式でない言及」)。 |
| Dyckia remotiflora | |
| Dyckia scrutor | Encholirium scrutor から移行。 |
| Dyckia viridiflora | Encholirium splendidum の改名。 |
VU(危急種、Vulnerable)
| Dyckia meziana | Deuterocohnia meziana から移行。当方の mezii とは別の種。 |
|---|
2026年版への改訂では、2022年版から続く種のカテゴリーに変更はなく、旧 Encholirium 名義だった種と Deuterocohnia meziana が Dyckia 名義に移りました。新しく加わったのは argentea、brachyphylla、pectinata です。
ダムと川の岩場の種DAMS AND THE RIVERSIDE ROCK SPECIES
川の急流沿いの岩場に生きる種(rheophyte、渓流生植物)は、水力発電ダムの貯水に産地ごと沈んできました。
Dyckia distachya(CR)
ウルグアイ川とペロタス川の急流沿いに育つ種です。野生個体群はもともと8つが知られていましたが、Itá、Machadinho、Barra Grande の各ダムの貯水池に産地が沈み、現在知られる野生個体群は、Turvo 州立公園(リオグランデ・ド・スル州)の Salto do Yucumã の1つだけとされます(2012年の遺伝学研究)。ダムの閉鎖に先立っては、Chapecó 近郊から集められた個体がサンタカタリーナ連邦大学の遺伝資源バンクに移され、域外で保全されています。一方で、対話プロセスの背景文書には「ブラジルでは絶滅したものとみなされ、再導入(repopulation)が進む」と書くものもあり、現存の捉え方には時期と定義の差があります。
Dyckia Brazil の Constantino 氏は、aurea タイプの原産地(ウルグアイ川)が Itá ダムの建設で失われたと記録しています(個人の現地記録)。
Dyckia brevifolia(国家リスト未収載/州リスト EN)
イタジャイ=アスー川(サンタカタリーナ州)の岩場の種で、国家リストには載っていませんが、リオグランデ・ド・スル州のリストでは EN(絶滅危惧種、Endangered)に評価されています。2024年の個体群調査では、株の数(ロゼット数)が56%減ったと報告されました(サンタカタリーナ連邦大学の学位論文、2025年)。Salto Pilão 発電所近くの Colônia Subida のコロニーは2024年に消滅したと、地元の環境団体の発信に明記されています。種全体ではなく、その場所の個体群の消滅の報告です。種子から育てられた株は、Rio do Sul 植物園へ寄贈されています。
Dyckia ibiramensis(EN)
イタジャイ・ド・ノルテ川(サンタカタリーナ州 Ibirama)沿いの、およそ1.1 km の範囲にだけ分布します。CNCFlora の評価(2012年)では主たる脅威は水力発電所の設置で、認可された小水力発電の計画では、2つの亜個体群が完全に水没するとされました。サンタカタリーナ州のリストでは CR(近絶滅種、Critically Endangered)と、国家リストより重く評価されています。brevifolia と同じ2024年の調査では、株の数(ロゼット数)が64%減ったと報告されています。
採掘・生息地の転換・採取MINING, LAND CONVERSION AND COLLECTING
Dyckia rariflora(EN)は、ミナスジェライス州の鉄四角形地帯(クアドリラーテロ・フェリーフェロ)の、鉄質のカンポス・ルペストレス(カンガ)に育ちます。主な圧力は鉄鉱石の採掘で、鉱山の廃石堆積場の直接影響圏内に本種の記録があることも、州の環境機関の文書に記されています。
Dyckia fosteriana(EN)はパラナ州のみに分布し、CNCFlora の評価(2012年)では、生息地の喪失と分断に加えて、成熟個体の採取が理由に入っています。「属の中でおそらく最も観賞価値が高く人気のある種」と評される種で、採取圧は評価理由の一つです。
Dyckia hatschbachii(CR)は、1951年に採集されたタイプ標本だけで知られ、以後は再発見されていません。タイプ産地が破壊されたと明言する資料はなく、確認できるのは、再発見されていないという事実までです。
掲載種のうち、評価理由の文面を確認できていない種については、カテゴリーと出典だけを示し、理由は書きません。
評価が割れる記録と、公式でない言及DIVIDED ASSESSMENTS AND UNOFFICIAL MENTIONS
Dyckia reitzii は、国家リストでは EN(絶滅危惧種、Endangered)ですが、リオグランデ・ド・スル州のリストでは CR(近絶滅種、Critically Endangered)と重く、IUCN の評価(2012年)でも EN とされながら、同州での存在は「不確実」とされました。標本と現地の記録は同州にあり、どの評価を読むかで結論が割れます。
Dyckia monticola については、利用者が編集する海外の園芸データベースに「野生絶滅(EW)」と書かれたものがあります。これは公式の評価ではありません。公式には、国家リストで CR(近絶滅種、Critically Endangered)です。
Dyckia argentea と mezii の関係も、まだ決着していません。分類データベース(Gouda らの Bromeliad Taxon List)では、argentea Mez は mezii の異名とされ、mezii はその置換名として作られた名です。ただし、2026年版の国家リストが「Dyckia argentea」の名で収載したものが mezii と同一の分類群かどうかは、評価票での確認が取れていません。両者は同一とは扱わず、mezii のページにも評価は載せていません。
原種の分布図は「原種の分布」にあります。
出典SOURCES
Portaria GM/MMA nº 1.783/2026(2026年10月26日発令、DOU 2026年10月28日掲載)の別表。Dyckia の掲載行は官報の原文で確認した。 Portaria GM/MMA nº 300/2022(2022年版の国家リスト)。 CNCFlora(Jardim Botânico do Rio de Janeiro)の評価ページ: fosteriana(2012年)、ibiramensis(2012年)。 IUCN Red List の Dyckia reitzii の評価(2012年評価、2014年公表)。 リオグランデ・ド・スル州リスト(Decreto Estadual nº 52.109/2014)。サンタカタリーナ州リスト(CONSEMA、2014年)。 Pompelli & Guerra (2004) Crop Breeding and Applied Biotechnology 4: 273-279。distachya のマイクロサテライト研究(2012年)。 Ferreira(サンタカタリーナ連邦大学 学位論文、2025年)の2024年個体群調査。Brazilian Journal of Biology(2023年)の brevifolia の分布調査。 Associação Ambientalista Pimentão Alto Vale の発信(2025年11月。Subida コロニーの消滅と寄贈について)。 BMC Research Notes(2024年)の rariflora と鉄鉱採掘の報告。Gouda & Butcher, Bromeliad Taxon List(異名の対応)。
調査:2026年11月
