NOTES — 研究ノート
交配と種蒔きCROSSING & SOWING
ディッキアは、交配の記録を残しながら育てる楽しみのある植物です。当方でも、交配した年と、種子親・花粉親とを分けて記録することを続けてきました。
花とタイミング
ブロメリアの花は、萼片3枚・花弁3枚・雄しべ6本・雌しべ1本という造りです。ディッキアでは雄しべが花弁から突き出ず、花粉は花が開く前から熟していることがあるため、膨らんだ蕾を割って葯に触れる必要がある場合があります(豪州の同好会誌に載る育成家の実践記録による)。雌しべが花粉を受け入れる期間は短く、種によって、また時刻によってもずれます。自家受粉については種差が大きく、「ディッキアは自家では実らない」とも「勝手に自家受粉する」とも、属全体では言えません。自家受粉では結実がゼロだった Dyckia longipetala の実験もあれば、自家でも結実するが他家交配の方がはるかに結実率の高い Dyckia floribunda の実験もあります。
交配の手順
基本は、種子親になる花の雄しべを、自株の花粉が熟す前に取り除くこと(除雄)です。自株の花粉が柱頭に落ちないよう慎重に行い、柱頭を傷つけないよう注意します。花粉親からは、筆やピンセットで花粉を運んで柱頭にのせます。(ディッキアの実践例では、花の中に選んだ花粉を満たし、花弁をクリップで閉じて固定する方法も報告されています)また、花弁を外すと受粉作業は行い易いですが、株自体にストレスを与えてしまうので、生き物への正しい判断が必要と考えます。受粉させた花にはタグや色糸を付け、何の花粉を付けたかを必ず記録します。当方ではマスキングテープなどに花粉親の名前を書いてマーキングしたりしています。なお、昆虫や風が勝手に受粉させてしまうため交配中の株は必ず隔離し、受粉していない花を取り除くことも大切です。当方でも交配中の株はハウス内に取り込み、それぞれ管理しています。
花粉の保存
親同士の開花期がずれる交配では、花粉の保存が必要となります。古典的な交配手引き(BSI の創成期の記録)では、葯を紙や密閉瓶に入れて冷蔵し、数時間のずれを埋める方法が紹介されています。当方は充分に水分を飛ばして熟したばかりの葯をチューブに入れて、シリカゲルと一緒に冷凍保存する方法で管理しています。ただし、保存したディッキアの花粉がどれだけの期間もつのかは、確かめられた記録が見当たりません。過去に1年前の花粉を使用したことはありますが、結実する確率が下がったため、「新鮮な花粉同士で合わせる」を基本に考えるのが無難です。
採種
受粉が成功すると実が膨らみ、やがて乾燥した蒴果になります。蒴果は茶色く乾いて硬くなり、裂けて種子を散らします。裂ける直前から直後に収穫しないと、種子は風で飛ばされて失われてしまいます。受粉から実が熟すまでの期間は、出典の間でも数字が一致しません。「数週間から数か月で実が膨らむ」という国内の案内はありますが、期間を決め打ちせず、蒴果の色と裂け具合を観察するのが確実です。
種蒔き
種子は新鮮なうちに播く、というのが実践家の一致した考えで、ブラジルの育成家 Constantino 氏も「ディッキアの種子は、特別な管理なしでは長く持たない」と書いています。一方で、よく乾燥させて冷蔵・冷凍した種子が、1年後も発芽率を保った実験報告もあり(対象は2種)、保存の成否は乾燥と低温の管理次第と言えます。播き方は各出典で一致しています。用土の表面にばら播きし、土はかぶせません。ディッキアの種子は光がある方が発芽しやすい性質(好光性寄り)が多くの実例や実験で確かめられているためです。用土は、ピートモスとパーライトの配合のような、水はけのよい細かいものを使い、浅い容器に播いて霧吹きで湿らせ、透明な蓋やラップで湿度を保ち、明るい日陰に置きます。温度は20〜27℃ほどが目安ですが、種によっては30℃で発芽が落ちる例も報告されています。発芽は早い条件では数日、鉢に播いた場合は2週間から1か月ほどが目安です。発芽後は徐々に蓋を開けて外気に慣らし、本葉が育ってから鉢上げします。
調査:2026年10月
