NOTES — 研究ノート

用土と鉢SOIL & POTS

用土の考え方は、育成家によって分かれます。どの立場でも前提になるのは「根元に水が滞らないこと」ですが、その先は大きく二つです。 一つは、軽石や赤玉土などの無機質を中心に排水を最優先する考え方で、日本の栽培案内ではこちらが主流です。国内で紹介される配合例にも、赤玉土4・軽石3・腐葉土2・パーライト1のように、無機質を主体に有機質を少し加えたものがあります。締まった株姿に育ちやすく、高温多湿の環境では腐敗のリスクを抑えられます。

有機質の用土
有機質の用土(2026-10-31)

もう一つは、腐葉土や堆肥などの有機質をしっかり含ませ、保水と保肥を高めて成長を促す考え方です。米国ヒューストンのブロメリア同好会の栽培記録は「有機質を主体にした配合がよい」とし、ブラジルの栽培テキストには洗い砂25%・表土25%・牛糞や馬糞50%という配合例が載ります。 有機質を含む用土では株が大きく育ちやすく、米国の同好会の記録にも「鉢が大きく、肥料が多いほど株は大きくなる」とあります。国内の販売者の案内にも、水はけのよい土では引き締まった姿に、保水性の高い土に肥料を加えると大きく育つ、と両論を併記したものがあります。 二つの考え方は正誤ではなく、「締めて育てるか、大きく育てるか」という狙いの違いと捉えるのが実態に近いでしょう。

有機質を含む用土
有機質を含む用土
用土の配合
用土の配合
無機質中心の用土
無機質中心の用土

当方でも有機質や無機質、ブレンドした用土などでテストしてみましたが、やはり有機質の方が生き生きとした表情になり株自体が強く成長する印象を受けました。

鉢は、株と同等かそれ以上の大きさを選びます。ディッキアは他のブロメリアと比べて根量が非常に多く、鉢の大きさに合わせて株が大きくなる性質があるためです。 小さな鉢に収め続ければ成長は抑えられます。これをコンパクトな姿を保つ手法として意図的に使う栽培者もいますが、水切れは速くなります。

実生した子株
実生した子株(当方実生株、2026-05-09)

肥料は生育期に与え、冬は止めます。ただし、濃さについては同好会の間でも見解が分かれます。米国のヒューストンのブロメリア同好会の記録は、春から秋の水やりのたびに薄い液肥(通常の4分の1以下)を与え、寒い時期は止める方法を取ります。一方、同じく米国の Henry Shaw 同好会は「通常の4分の1ではなく、2分の1の濃さがディッキアには要る」とし、基準の取り方自体がずれています。国内では、緩効性の固形肥料や薄めた液肥を月に1〜2回という案内が多く、株元への置き肥を月1回とする販売者の目安もあります。 無機質中心の用土は養分を保持しないため、生育期の施肥が成長を左右します。有機質を含む用土では、土自体が養分を保持する分、施肥は控えめで足ります。

NPK は、肥料の三大要素である窒素(N)・リン酸(P)・カリ(K)のことです。肥料の袋に「10-10-10」のように並ぶ3つの数字は、その順に各成分の割合を示します。そのバランスにも定説はありません。豪州の同好会誌の施肥特集は、ディッキアを含む地生のブロメリアは「バランスの取れた肥料、やや窒素が高めでもよく反応する」とし、ブラジルの栽培テキストには NPK 14-14-14 または 10-10-10 を水1リットルに小さじ1杯ほど溶かして散布する例が載ります。対して南アフリカの同好会の属別ノートは、カリが窒素より多い緩効性肥料を指定します。窒素の方向ひとつ取っても、案内は真逆になり得ます。 植え替えのときに緩効性肥料を小さじ1杯ほど鉢の上部に加える実践例も豪州の育成家から報告されていますが、これは単独の報告です。 注意点として比較的確かなのは、窒素分が多すぎると徒長の原因になり、花芽も付きにくくなること(国内の案内)、そして銅はブロメリアにとって有害で、高濃度の銅を含む肥料や銅系の殺菌剤を避けるよう、複数の資料が注意していることです。

用土の化学 — pH とアルカリ度

配合を考えるとき、もう一つの軸が用土の化学性、とくに pH です。海外の園芸ガイドが示すディッキアの目安は弱酸性から中性で、pH 5.5〜7.5 と幅広く取る案内もあれば、6.0〜7.0 に絞る案内もあります。ただしこれらは園芸ガイドの目安で、BSI をはじめ同好会や協会の公式案内に、pH の数値指定は見当たりません。

一方、自生地の土壌ははるかに酸性です。ブラジルの石英岩地帯(カンポス・ルペストレス)の土壌調査では、pH 4 前後(3.9〜5.2)の値が並びます。野生のディッキアは、痩せて強酸性の土でも生きています。ただし「自生地の pH がそのまま栽培の最適値」ということではありません。鉢の中では根の量も水の動きも違うため、自生地の数字と栽培の目安は切り分けて考える必要があります。

中性34567891011pH園芸ガイドの目安自生地の土壌(参考)3.9–5.2ピートモス(未調整)≈4富士砂(弱酸性とされる)ピートモス(調整済み)≈6パーライト(中性〜弱アルカリ性)くん炭8–10
身近な資材の pH(模式図)。網掛けは園芸ガイドの目安(pH 5.5〜7.5)、破線の帯は数値ではなく性質の目安

身近な資材の pH も、配合の結果を左右します。ピートモスは、未調整のものは pH 4 前後の酸性で、自身の体積の10〜20倍の水を保持する一方、肥料成分はほとんど含みません。酸性を和らげた調整済みのピートモス(pH 6 前後)も販売されています。当方でも、ピートモスを株元に塗るように使った monticola の若株が、よく太ったことがあります(2023年)。 アルカリ性の資材としては、くん炭(pH 8〜10)があります。パーライトはほぼ中性から弱アルカリ性とされ、富士砂は弱酸性とされる資材です。水はけ材だからといって、化学的に中立とは限らないのです。

長い目で鉢の pH を動かす最大の要因は、用土そのものよりも水です。温室栽培の研究では、灌水の pH そのものではなく、水に溶けた重炭酸などの「アルカリ度」が、時間をかけて用土の pH を押し上げることが確かめられています。アルカリ度の高い水で3か月灌水を続けた実験では、用土の pH が2.5上がりました。ただし、これは硬水地域での結果です。高知市の水道水は硬度の低い軟水(主な浄水場で 30 mg/L 台)で、同じ押し上げが同じ強さで働くとは限りません。 ピートモスのような資材は、プラスのイオンを蓄える力(陽イオン交換容量)が大きく、pH の急な変化を緩める働きもあります。ただ、その緩衝にも限界があり、鉢植えでは長期的には水と肥料の性質の方が勝ります。酸性側へ寄せたい場合の古典的な道具が硫安で、アンモニウムが吸収される過程で土を酸性に傾けるため、「生理的酸性肥料」に分類されます。

調査:2026年10月

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